東京高等裁判所 平成6年(ラ)360号 決定 1994年4月21日
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は別紙執行抗告状記載のとおりである。
二 本件抗告の理由は要するに、本件債権差押命令は、相手方を原告、抗告人を被告とする仮執行宣言の付された手形判決に基づくものであるところ、右債務名義については既に強制執行停止決定がなされ、また、本件債権差押命令の差押債権は、右強制執行停止決定の保証として供託された供託金の取戻請求権で、しかも、抗告人は本件差押命令の発布前に新潟地方裁判所民事部宛に強制執行停止決定がされているから強制執行の手続をとらないよう求める上申書を提出しているのであるから、執行裁判所としては、本件債権差押の根拠となつた債務名義について既に強制執行停止決定がなされているか否かを調査すべきであつたのに、これをせず、強制執行停止決定があるにもかかわらず、債権差押命令を発したのであるから本件債権差押命令は違法であるというものである。
しかしながら、債権差押の申立を受けた執行裁判所としては、発令要件がととのつている以上、当該事件について、民事執行法三九条一項所定の文書が提出されない限り、債権差押命令を発令しなければならないのであつて、たまたま、差押申立の基礎となつた債務名義について既に強制執行停止決定がなされていることを知つたとしても、そのことを理由に申立を却下するあるいは発令を留保することは許されないというべきである。けだし、当該執行事件の手続外の私知により、発令が左右される結果になるのは手続の安定を害するからである。
そうであれば、執行裁判所としては、差押債権の内容が強制執行停止決定の存在を窺わせるものであり、また、強制執行停止決定がなされている旨の上申書が執行裁判所が所属する裁判所民事部宛に送付されていたとしても、債権差押申立の基礎となつた債務名義について既に強制執行停止決定がなされているかを調査すべき義務はなく、また、本件において、債権差押命令発令前に民事執行法三九条一項所定の文書の提出がないことは記録上明らかである。
したがつて、抗告人の主張は理由がないことになる。
他に原決定を取り消すべき違法の点は見当たらない。
三 よつて、本件抗告を棄却し、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 時岡 泰 裁判官 大谷正治 裁判官 山本 博)